婚約破棄とは
婚約は、「婚姻の予約」であり、男女が、将来婚姻届を提出して夫婦となり、婚姻共同体を形成、維持していくことを誠実に約束することです。
まだ夫婦関係にはなっていないものの、そうなることを誠実に約束している状態において、これが不当に破棄されたり、あるいは破棄することがやむを得ないと認められる場合には、それにより発生した財産的・精神的損害の賠償が認められ得ます。
ただし、婚約は、男女の真摯な合意に基づくものですから、破棄された場合でも、婚姻することを強制することはできません。
なお、婚約の不当な破棄とは、
- 単なる性格の不一致
- 趣味が合わない
- 相手方の親とそりが合わない
- 料理がまずい
- 掃除が下手
等、婚姻共同体を形成、維持していくことが極めて困難とは言えない理由による破棄をいいます。
逆に、婚姻を破棄することがやむを得ない事由とは、
- 婚約中に相手方が別の異性と浮気をした
- 暴力や、DVと評価できる程の暴言がある
- 将来夫婦生活を維持していけないような重大な疾患を隠匿して婚約した
等が挙げられます。
婚約破棄で請求できるもの
大きく分けて、財産上の損害及び精神上の損害が対象になります。
- 財産上の損害:婚姻に向けての準備費用などがあてはまります。
- 精神上の損害:婚姻予約の破棄により、精神的な苦痛を受けた場合があてはまります。
財産上の損害
婚姻に向けての準備費用に該当するのは、結婚式・披露宴のキャンセル費用、新婚旅行のキャンセル費用、仲人さんへの謝礼、新居を新たに賃貸した場合の契約手数料等があげられます。
また、いわゆる寿退社により退職する等、婚姻予約しなければ退職しなかったと認められる場合、退職により収入が減少した分も該当しうる場合があります。
なお実際同居して生活を共にしていた場合、生活に関する費用精算は、財産上の損害とはまた別に問題となるので、精算のし忘れがないよう、注意が必要です。
精神上の損害
婚姻予約の破棄により、具体的にどのような精神的な痛手を蒙ったのかが問題となります。
具体的な算定要素は、
- 婚姻成立に向けた行為に着目したもの(挙式・披露宴・結納やそれらの準備、親族や友人 への紹介等)
- 破棄の帰責事由となるもの(暴力や他の異性との交際等)
- その他(交際期間、同居期間、妊娠、中絶、出産、破棄当時の年齢等)
など多岐にわたります(慰謝料算定の実務第2版・千葉県弁護士会p13より)。
いわゆる「相場」と呼ばれる金額が巷ではあるようですが、実際の事案では下は10万円程度、上は数百万円と事案による開きがあり、特定の事案について「相場」から請求金額を断定するのは容易ではありません。
婚約破棄で請求できないもの
財産的損害について、婚姻のために新居や家具を購入した場合は注意が必要です。
例えば新居や家具を損害賠償の請求者名義で購入した場合、婚約破棄自体によって請求者の購入した新居や家具自体の価値が下がるのか、と言われれば、必ずしもそうではありません。
したがって、新居や家具の購入費用自体を損害として請求するのは難しいです(以上神戸地方裁判所平成14年10月22日判決より)。
ただ、婚約破棄により新居や家具が必要なくなったので売却し、いわゆる売却損が実際に出た場合、売却損を損害として請求した場合、場合によっては認められる可能性はあると思います。
また同裁判例では、かかる新居の購入経緯(結婚後の住居として新居を購入し、家具も購入)を、前記精神的損害(慰謝料)が発生する一要因として考慮し、慰謝料の金額を算定しているので、新居、家具購入の経緯を主張、立証することは有用と思われます。